料理好き、そして玉子好きな小説家の井上荒野さんが、 気楽に作れておいしい、「目玉焼きや落とし玉子」のせ料理を紹介する連載エッセイ。今回のひと皿は、温かいだしでいただく「トマトにゅうめんに落とし玉子」。夏の終わりに余ったそうめんで簡単に作れ、肌寒くなる秋に体をやさしく温めてくれるひと皿です。
長野の家は標高千五百メートルの地にあって、夏はすこぶる涼しい。エアコンがいらないどころか、窓を開け放つ日すら数えるほどだ。しかし東京より涼しいということは、東京が涼しいときにはこちらは寒いということでもあって、今年も八月の終わりには朝晩に石油ストーブをつけていた。
肌寒い日によく作るのがにゅうめん。元気なときなら野菜でかき揚げを作って添えたりするが、本日は二日酔い気味でもあるので、トマトを入れてあっさり簡単に。トマトにゅうめんにはかき玉も合うけれど、もちろん落とし玉子も合う。かき玉はだしの一部と化すけれど、落とし玉子は具のひとつになるところがえらい。
ところで、このような「月見系」を食べる場合、落とし玉子にいつ箸を入れるかに私はいつもものすごく悩む。だって玉子の黄身が流れ出した瞬間にだしの味が変わってしまうし、それはそれでおいしいけれど、最初のだしの味わいはその瞬間に消えてしまうわけだし、かといって最後まで玉子を取っておくというのでは玉子を落とした意味がないし(以上、含蓄を感じながら読んでください)。隣で食べている夫が何のためらいもなく玉子を崩し、美しく澄んだだしをたちまち濁らせながら嬉しそうに啜り込んでいるのを見るとき、それは私が「この男の妻になってよかったのだろうか」と内省するときだったりする。
色づきはじめた稲穂
かわいい駅
ホットカーペットと
ストーブで蓄熱中
撮影/三原久明
文・写真・料理/井上荒野 構成/掛川ゆり
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