
2020.10.22
こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
なんだか最近、ナチスドイツ関連の映画が多くないですか? なんでだろうと思っていたら「戦後70年以上経って、ようやく戦争が歴史として扱えるようになったから」という意見がちらほら。ふむふむ。それに加え、数えきれないほどの人間ドラマがあるからなんでしょうね。加害者、被害者、もしくはどちらとも言える人、色々な人の立場から戦争を描いた作品が最近充実しているように思います。
今作もまた、ドラマ性という意味では他に引けを取りません。元ナチス兵士の青年が終戦後に捕虜としてイギリスに留まり、やがてサッカーを通して英独の架け橋となったという、実話に基づいたストーリー。スポーツの素晴らしさ、敵と味方という見方だけでは割り切れない人間の複雑さ、人を許すことの難しさと尊さなど、メッセージがたっぷり詰まった作品です。
バート・トラウトマン。イングランドの名門サッカークラブ、マンチェスター・シティFCを1956年のシーズンに優勝に導いた伝説のゴールキーパーであり、この物語のモデルとなった人物です。
ヒトラーの掲げた「強いドイツの復活」という理想に魅せられた少年期。戦線で5つの勲章を授与される活躍を見せるも、ドイツの敗戦が濃厚になるに従い、戦争に疑問を抱いていった青年期。この部分はあとから資料を読んで知っただけで、映画が描くのは、終戦直前に捕虜としてイギリスに送られてからの人生です。
連合国の勝利で戦争は終結するも、捕虜はすぐには解放されず、収容所での労働に従事するバート(デヴィッド・クロス)。休憩時間、タバコを賭けて行ったサッカーで彼が見せたのは、見事なゴールキーパーぶり。それを見ていた地元サッカークラブの監督であるジャック(ジョン・ヘンショウ)は、降格直前のチームを救うため、バートを無理やり試合に出場させ……。
国境沿いで、戦時中に敵同士が食べ物を物々交換していたなんて話を聞きますが、こういうことってたくさんあったろうなと思います。個人を知ってしまうと、敵か味方かだけでは割り切れないものですよね。最初はバートを警戒していたジャックの娘マーガレット(フレイア・メーバー)が、次第に彼を受け入れていくのも、さらには男性としての魅力に気づいてしまうのも、ごくごく自然な流れだなと思うのです。
一方で、個人を知らないと、やはり人は人を記号で判断してしまうのも事実。地元チームを優勝に導き、名門マンチェスター・シティに入団するも、バートを待ち受けていたのは、歓迎とは正反対の罵声の数々でした。それに対するバートの反論、そして妻となったマーガレットが取った行動を見て、自分がその場にいたらどうするだろうと考えさせられます。全体を理解せずに一部を切り取って解釈する。これってSNSが発達した今の世界にも共通していることかもしれません。
新チームに入団した後の展開がまたドラマチック。彼の人生年表を調べてみると、映画の「その後」がけっこう切なかった……。ナチス兵だったこと、イギリスで英雄になったことも含め、どれもが彼の一部なんだと考えると、人の一生の重みに圧倒されます。
この辺の事情も知った方がより感情移入できると思うので、映画を見た後にちょっと調べてみてほしいです。感動的でよかった! それだけで終わらないほうが、この作品は価値がある気がします。
「キーパー ある兵士の奇跡」 10月23日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
©2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann
【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和
次回10/30(金)は「パピチャ 未来へのランウェイ」です。お楽しみに!
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