
2020.10.08
こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
雑誌やネット上で「 恋愛映画特集」とか、「アクション映画10選」など、ジャンル別に紹介してくれていることがあると思うんですけど、僕は中でも「鬱映画特集」が好きです(笑)。別に鬱々とした映画が好きという意味でなく(好きですけど)、人によってとらえ方が違うのを知るのが面白くて。自分は別にそう思わない作品がリスト入りしていたり、その逆もしかり。
今回の作品も、イントロダクションを読むに、かなり暗い映画であることが予想できました。ホロコースト、逃亡、差別と虐待etc.と、重い要素は十分過ぎるほど。確かに見るのが心苦しいシーンはいくつもあるのですが、同時にモノクロの映像美に引き込まれる部分もあり、いわゆるナチス映画、戦争映画とは一線を画している印象。むしろ現代の世界にも通ずる、普遍的なメッセージがそこにはありました。
ナチスやホロコーストを扱った映画も、本当に様々だなと思います。例えば、先日紹介した『ある画家の数奇な運命』は、ナチスドイツが自国民の中でも命の優劣をつけていたという事実に焦点を当て、戦中戦後を描いた作品。またこちらも紹介しましたが、『ジョジョ・ラビット』のように、ドイツ人とユダヤ人の思わぬ交流をテーマにしたものも。
これらの作品と比べると、この『異端の鳥』はちょっと異色です。というのは、どこの国なのか、いつの時代なのかが明らかにされていないから。東欧のどこかという設定らしいですが、それすら明示はされていません。疎開で両親と離れて暮らすユダヤ人の少年(ペトル・コトラール)が、行く先々で迫害を受ける、ただもうそれだけ。肌と髪、瞳の色の違いで疎まれ、土に埋められ、川に突き落とされ……。ヴェネチア国際映画祭で途中退出者が続出したというのも納得です。カラーだったら残虐性だけが強調されて「グロい」となってしまいそう。モノクロ映像が功を奏して、その映像美にいつの間にか引き込まれてしまうんです。
これ、戦争映画であって戦争映画ではないのかなあと。だって少年が受けている迫害は、現代の平和な国でも起こりうるものだから。原題は『The Painted Bird』。ペンキを塗られた鳥は群れの中でもはや異質な存在となり、つつかれ、羽根をもがれ、墜落する。とっても分かりやすいシーンがあります。
人は見た目や宗教、国籍の違いでいとも簡単に他者を傷つけられる、そのことを改めてつきつけられた気分になります。民族問題として考えると日本はあんまり関係ないなって思ってしまうけど、新型コロナウイルスの第一波のとき、感染者がすごくたたかれていたことを考えると、やはりどこの国でも起こる話だなと……。
ユダヤ人に蛮行を繰り返すドイツ軍。そのドイツ軍に協力した者たちに暴力をふるうソ連軍。両者とも本当に恐ろしいのですが、一番怖いのは、単純に外見の差だけで少年をいじめ抜いた、普通の村人たちかもしれません。
むごいシーンが多いからこそ印象に残るのがひと握りの人たちの優しさ。逃げてきた少年を家に泊める村人、少年の処刑を命じられるも、こっそり彼を逃がそうとする兵士etc.この人たちの行動は何を意味しているんだろう。人間の光と影、両方について考えさせられる作品でした。
「異端の鳥」 10月9日(金)TOHOシネマズシャンテ 他公開
配給:トランスフォーマー
©2019 ALL RIGHTS RESERVED SILVER SCREEN ČESKÁ TELEVIZE EDUARD & MILADA KUCERA DIRECTORY FILMS ROZHLAS A TELEVÍZIA SLOVENSKA CERTICON GROUP INNOGY PUBRES RICHARD KAUCKÝ
【編集マツコの 週末には、映画を。】
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文/編集部・小松正和
次回10/16(金)は「おもかげ」です。お楽しみに!
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