
2020.01.30
こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
初対面の人に「仕事は何をしていますか」と聞かれて、シンプルに「編集者です」と言ってしまうときがあるのですが、この回答は誤解を生むようです。
編集者って言うと、小説家か漫画家の先生の担当みたいなイメージを持つ人が多いようで、これはサザエさんに出てくるノリスケさんの影響も大きいのではと勝手に思っています。
映画やドラマに編集者が出てくる場合、圧倒的に文芸担当が多くないですか?
料理編集者って地味だからドラマにならないんですよね~日々ドラマはあるのですが。
今回紹介する作品は『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』。料理編集者と同じく(?)職業としてあまり取り上げられることのない「翻訳家」が主役のストーリーです。
予想を何回も裏切る展開に、ただの謎解きで終わらせないフランス映画らしいエスプリを感じる作品でした!
Traduttore, traditore. イタリアに「翻訳者は裏切り者」ということわざがあります。
これは、どんなに優れた訳者も原文を忠実に伝えることはできず、結果的に作者の意図を裏切ってしまうという意味。
加えて、イタリア語だとこの2語の言葉の響きが近いという面白さもあるんでしょうね。
この作品に出てくる9カ国の翻訳者たちも、日々こういう葛藤を抱えているのかもしれません。
大ヒットシリーズの小説「デダリュス」の完結編が出るにあたり、出版社のオーナーであるアングストローム(ランベール・ウィルソン)はある行動に出ます。
それは、翻訳版を世界同時発売するために、情報漏洩を防ぐ目的で各国の翻訳者たちを隔離して翻訳作業をさせるというもの。
これ、有名な「ダ・ヴィンチ・コード」シリーズの出版時に実際に取られた措置なのだそう。すごいですよね。
でも情報漏洩が起こらないと映画にならないわけで……ハイ、漏洩するのです。しかも10ページも。
アングストロームのメールに寄せられた犯人の要求は、「500万ユーロ払えば流出は止められる。24時間以内に払わないと、次の100ページを公開する」というもの。
一体犯人は誰なのか……疑心暗鬼に駆られたアングストロームと、翻訳者たちのパニック劇の始まりです!
前にも書いたかもしれませんが、色々な国の人が出てくる話が好きです。それも、ちょっと争っている話のほうがそれぞれの国の特性がよく出ていて面白いのです。
集められた9人の翻訳者の国籍は、イギリス、ロシア、ドイツ、イタリア、スペイン、ポルトガル、デンマーク、ギリシャ、中国。
なぜこの9カ国?と思ったら、シリーズの翻訳版売り上げ上位の国という設定でした。残念ながら日本は圏外(涙)。あ、でも途中で一度日本が言及されるのでお見逃しなく……!
例えばロシア語版のカテリーナ(オルガ・キュリレンコ)は、作品に傾倒していてヒロインのコスプレをして臨むほど。対してギリシャ語版のコンスタンティノス(マノリス・マヴロマタキス)は、あくまで金のためと断言。
若くして英語版の翻訳に抜擢されたアレックス(アレックス・ロウザー)もひょうひょうとしていて気になるし、中国語版のチェン(フレデリック・チョー)はアジア代表としてなんとなく応援したくなる。
9人それぞれの翻訳者としての意気込みや生活にフォーカスするだけでも、かなり面白い映画になりそう!
最初は打ち解けていた9人ですが、漏洩事件が起きた後は見事にドロドロ。
犯人探しが始まり、国を揶揄するややブラックなジョークも飛び出し、マツコ的に嬉しい展開です。
犯人は意外に早く分かるのですが、トリックはもちろん気になるものの、その理由を解明していくプロセスに面白みを感じます。
マツコは翻訳小説が好きで、日本の作品よりも好んで読んでいます。
何に魅力を感じるのかなあと考えるに、見知らぬ異国の描写に興味をくすぐられるだけでなく、翻訳小説特有の言い回しや表現が好きなのかもしれません。
原文の意味を損なわないよう、日本語で読むとやや不思議な?印象のフレーズもあり、かえって訳者の真摯な姿勢を感じるというか……。
「訳者あとがき」を読むのも好きなのです。
この映画の9人の翻訳家もいっしょ。それぞれ方向性は違っても、この仕事に誇りを持っていることがじわじわと伝わってきます。
犯人はどうやって、そしてなぜ原稿を流出させたのか。そこには予想と違う展開が待っていました。
牛丼が意外に酸っぱかったみたいなイヤな意外性ではなく、おしゃれなパン屋だけど懐かしいクリームパンも置いてあるみたいな、嬉しい驚きなのです。
ミステリー要素だけでなく、人間のストーリーが詰まっている今作。
みなさんの感想も気になります!
「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」 全国順次ロードショー
配給:ギャガ
©(2019) TRÉSOR FILMS – FRANCE 2 CINÉMA - MARS FILMS- WILD BUNCH – LES PRODUCTIONS DU TRÉSOR - ARTÉMIS PRODUCTIONS
【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和
次回2/7(金)は「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」です。お楽しみに!
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