
2019.11.14
こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
どちらかというと洋画派ですが、洋画で日本が舞台だったり、日本の話や日本人が出てくるものが好きです。
東京を訪れたアメリカ人女性の孤独を描いた『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)とか、菊地凛子さんが出演して話題になった『バベル』(2006)とか。
外国としての日本、外国人としての日本人、という見え方が新鮮で面白くって。
『ラストサムライ』(2003)もそうですね。渡辺 謙さんがトム・クルーズに負けないくらいカッコ良かったなあ……。
その渡辺 謙さんとアカデミー俳優のジュリアン・ムーアが競演する『ベル・カント とらわれのアリア』も、日本人が外国人として出てくるアメリカ映画。
違う国籍、違う文化を持ち、違う人生を歩んできた人たちが、じゃあどうやって分かりあうの?という問いの答えを提示する、見ごたえのある作品でした。
1996年のペルー日本大使公邸占拠事件を覚えていますか。マツコは子供だったのでうろ覚えですが、遠い国だけど日本と関係のある場所や人が大変なことになっている……と漠然と感じていました。
ゲリラ組織が公邸を占拠していた期間は、じつに127日間。その間、テロリストと人質の間に何が起こっていたのか。
この事件からヒントを得て書かれた小説『ベル・カント』を原作にしてこの映画は生まれました。
実業家のホソカワ(渡辺 謙)は、通訳のゲン(加瀬 亮)とともに、南米のとある国の副大統領邸で行われるパーティーに招かれます。
ホソカワの会社の工場を誘致したい主催者は、彼の好きなオペラ歌手ロクサーヌ・コス(ジュリアン・ムーア)も招待。
いよいよ彼女がその美声を披露し始めたそのとき、テロリストたちが邸宅になだれ込んでくるのです。
そうそう、途中で加瀬 亮さん演じるゲンの苗字も明らかになるのですが、なぜかこの人「ワタナベ ゲン」さんなんです。
なぜ渡辺 謙さんではなくて加瀬 亮さんにこの役名を! ここだけは最後まで引っ掛かりました(笑)。
「監禁された少女と犯人が、いつの間にか対等の関係になって快適に過ごす」という内容の小説を読んだことがあります。
快適かどうかは別として実際こういう現象はあり、ペルーの事件でもゲリラ戦士たちと日本人の人質の間に親密な関係が生まれたのだとか。日本語や将棋などへの興味から、らしいです。
この映画でも同じような現象が起こります。緊迫した状況に変化が生まれるのは、ゲリラの指揮官に命令され、ロクサーヌが政府への訴えの手段として歌を披露してから。
戦士の一人がコスに歌を教えてほしいと請い、別の者は、通訳のゲンにスペイン語と英語を教えてくれと言う。
この国の公用語である(はず)スペイン語を話せない人がいるんですよね。欲を言えば、このへんの事情をもっと知りたくなりました。架空の国としつつも、南米の国をモデルとしているのでしょうし。
とはいえ、やみくもにテロリストたちを「無学の恵まれない者たち」とするのではなく、例えば指揮官は元教師だったり、様々な人たちが別の道のりを経てここに辿り着いたということを、さりげなく感じさせる脚本はうまい。
ちなみに意外な人同士がそんなことになり、あんなことになり……。
テロリストたちにとっても人質にとっても極限と言える状態では、どんなことでも起こりうるんだなと感じました。
過去の大事件を題材にした映画や小説は数多くありますが、被害者側と犯人側、どちらの視点で描くかで同じ事件でもだいぶ見え方が変わる気がします。
警察や政府側の事件鎮圧作戦に焦点を当てたものもありますね。この映画はどうかというと、そのへんニュートラルかもしれません。
テロリストたちの行為を肯定も否定もせず、人質たちとの間に生まれた交流を静かに描く。
音楽だったり言語の交換だったり、武力以外の媒体が人と人の関係に変化をもたらす、そこがポイントなんですね。
この美しいストーリーから何か結論を導き出したいところですが、残念ながら争いの根本的な解決を見つけるのは難しい。
それでも、毎日のようにデモやテロが世界中で起こっている今、この映画が伝えるメッセージは決して小さくないはずです。
「ベル・カント とらわれのアリア」 11月15日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給・キノフィルムズ/木下グループ
©2017 BC Pictures LLC All rights reserved.
【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和
次回11/22(金)は「シティーハンター 史上最香のミッション」です。お楽しみに!
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